[P.22] 運動開始後1分以上経つといよいよ好気的代謝系の出番となる。それは、運動開始後、生体が活動筋へその酸素要求度に対応して呼吸・循環器系などを動員するのに時間がかかるからである。
前提となる状況を表す[P.21]図式「運動時のエネルギー供給系」(横軸: 運動時間 、縦軸:エネルギー供給)を見る。図式は「最初にクレアチンリン酸系、ついで解糖系により無酸素的にエネルギーが供給される。長時間の運動では好気的代謝系によりエネルギーが供給される」事を示す。これは、クレアチンリン酸系、解糖系、好気的代謝系(有酸素系)が、運動時間が進む過程で一度だけ関わる様に見える。
実際には、『[P.18] 運動強度に比例して、エネルギー源としての糖質の占める割合が徐々に上昇』で示された様に、運動強度に従って糖質、脂質の両方のエネルギーが使用され、例えば50%の運動強度の場合は糖質、脂質の両方のエネルギーが半分づつで、最大強度の運動においては糖質だけとなる。
ある図式では、クレアチンリン酸系、解糖系、好気的代謝系がほぼ順番にエネルギー源になると言い、別な時にはある割合でエネルギー源になると言う。この辺が混乱する所だが、多分同じ土俵での話ではないのだろう。
また、筋肉には速筋と遅筋があり、各々供給されるエネルギーの源が異なる。
追記 :
別の資料によると、この[P.21]図式は「一流の運動選手が、最大努力で全身運動」を行った時の各エネルギー供給機構の発生エネルギーと時間経過の関係を示している、とのことが判明。言わば理論上の話である事が分かる。
そして、私が上記で書いた「クレアチンリン酸系、解糖系、好気的代謝系(有酸素系)が、運動時間が進む過程で一度だけ関わる様に見える」と言うのは、誤解である事も判明した。
さらに補足すると、「新たな乳酸の見方」によると、「どんな運動中にも酸素を利用したエネルギー産生は常におきている。文字通りの無酸素運動はありえない」と明確である。
○ 遅筋 1型線維 / slow twitch / slow oxidative
この筋肉の特徴は、「疲れない」(抗疲労性が高い)事、持続性が有る事である。従って、姿勢制御に使われる。
私たち人間は直立して生活しいるため重心の位置が高い、また二足歩行であるため極めて不安定である。引力の影響をまともに受けて、常にフラフラしながら直立姿勢を保つ必要が有り、遅筋の性質を十分に活用している。
従って、遅筋の主体は抗重力筋などと言われる事もあるが、いわゆる深層筋であり、多くの資料にはその例としてヒラメ筋があげられている。
この様に考えると、どこにでもある酸素を十分に活用する特徴も納得できる。
○ 速筋 2型線維 / fast twitch-aあるいは fast oxidative glycolytic / fast twitch-b あるいは fast glycolytic
この筋肉の特徴は素早い立ち上がりであり、突発的な出来事に対して対応できるが、2種類の筋線維に分類される。
FTa (fast twitch a) : 高い解糖能力と比較的大きな酸化能力を持ち、収縮時間は短い。また、抗疲労性は大きい。
FTb (fast twitch b) : 解糖能力が高く素早く収縮する。ただし、疲労しやすい。
まとめると、
収縮速度 : FTb > FTa > ST
持久力 : FTb < FTa < ST
参考資料:
- 人間工学のための計測手法/生体電気現象その他の計測と解析/運動負荷時の心肺機能の計測 真鍋 知宏
- ヒトの骨格筋における筋繊維の変化 九州工芸工科大学 佐藤 陽彦
- 骨格筋肥大と筋線維タイプ移行 東京大学院・総合文化・生命環境科学 川田 茂雄. (論文集に含まれる)
- 新たな乳酸の見方 東京大学大学院総合文化研究科 八田 秀雄