– ウォーキングの科学 8に続く-
○ 筋収縮と収縮に必要なエネルギーの源(みなもと)
からだの動き(筋肉の収縮と弛緩)はATP の加水分解により発生するエネルギーに依存。具体的には、筋肉線維のミオシン頭部に含まれるATP分解酵素(ATPase)がATPをADPとリン酸に分解し、その時に放出されるエネルギーで、アクチンとミオシンの滑走が起こり、筋線維が収縮する。従って、筋肉内に筋収縮に必要なだけのATPが存在する事、および適時に不足分が供給される事が必要である。
ATPは食物を燃焼して得られるエネルギーを使用して、ADPとリン酸から合成される。
- クレアチンリン酸系、無酸素系(無気性代謝系)、非乳酸系 (色々な呼び方がある。)
体内のクレアチン貯蔵量の60%程度がクレアチンリン酸(PCr)の形で、さらにその90%程が骨格筋に蓄えられている。クレアチンリン酸はクレアチンキナーゼ酵素により、2〜7秒で素早くクレアチンとリン酸に分解し、そのリン酸はADPと結合してATPが合成されるため、運動初期のエネルギー供給源となる。体内のATPはごく少量で、最大の運動強度での持続時間は8秒。この系の中ではATP消費後は、休息時にADPからの合成を待つ。なお、クレアチンは肝臓、腎臓、膵臓でアミノ酸(タンパク質)から合成される。
- 解糖系、無酸素系(無気性代謝系)、乳酸系
解糖系のプロセスは細胞内の細胞基質で行われる。最大の運動強度での持続時間は33秒であり、運動負荷を落とすと持続時間は2時間半。ATP合成速度は有酸素系の100倍早い。酸素の供給を必要とせず、激しい運動では解糖系のATP合成が活発になる。強度の高い運動時は脂質よりも、糖類(血糖[ブドウ糖・グルコース]、グリコーゲン)が優先的に使われる。グリコーゲン、グルコースから2ATPとピルビン酸、乳酸が合成され、ピルビン酸は次のプロセスである有酸素系につながる。
- クエン酸回路(TCA回路)、有酸素系
解糖系に続く反応プロセスで、細胞内のミトコンドリア内で行われる。ピルビン酸からアセチルCoAとなり、クエン酸回路を一回りすると結局二酸化炭素と水に分解されるが、その間に2ATPが作られ、さらに水素原子(H+)がミトコンドリア内膜を通過して電子伝達系に入る。使用される糖質と脂質の割合は、運動強度により異なるり、軽い運動負荷では有酸素系のみが働く。
- 電子伝達系、有酸素系
ミトコンドリア内膜(Inner mitochondrial membrane)の、折り畳み構造(クリステCristae)での酸化還元反応を利用したエネルギー代謝により、34ATPを生成する。ATP合成を説明するいくつかのモデルが提唱されているが、水素イオン濃度差のエネルギーが、回転エネルギーに変換され、それがタンパク質の構造を変化させてATPを生み出す。
参考資料:
- 運動と生活習慣病予防 ―運動時の糖質利用を踏まえて- 砂糖類情報 鹿屋体育大学 浜岡隆文
- 新たな乳酸の見方 東京大学大学院総合文化研究科 八田 秀雄
- クレアチンとは グリコ スポーツ科学・栄養についての研究
- 好気呼吸/細胞呼吸/分子から見た生命現象 啓林館・ユーザーの広場
- 運動負荷とエネルギー代謝調節機構 広島女学院大学 下岡 里英 他