さらに、血管、毛細血管など新陳代謝に関わる器官や神経は、結合組織内に縦横に張り巡らされているので、筋肉は筋細胞と結合組織、血管、神経などで構成されて複合体です。
実際のからだで考えると、この構成で求められる事は、個々の筋線維の動きの程度(伸び・縮みする速さ、長さ、瞬時か緩慢か、など)に応じて、フレキシブルに偏位(excursion)できる(ズレる)周辺の結合組織であり、血管であり、神経である事です。
さて、サルコメアの収縮で発生した力は、この複合体を使ってどの様に骨格を動かすのでしょうか。
ここで注目したいのは、力の伝わる方向は長軸方向(筋線維の伸びている方向)だけでは無いと言うことです。
一つの事例として、Strength at the extracellular matrix-muscle interface(SEMI)を参考にします。この論文だけではなく、例えばForce transmission between synergistic skeletal muscles through connective tissue linkageなどにも、考察が発表されています。
まず、収縮力の伝達は個々の筋原線維(myofiber、myofibril)の長軸両端だけでは無くて、表面の周辺域全体で起こる。従って、筋細胞内の 細胞質(cytoplasm)、特に細胞骨格(cytoskeleton)を介して隣接の筋原繊維を巻き込む。細胞骨格の中でもdesmin (参照: myukuroのからだ世界35)の関与が大きい。さらに細胞膜、基底膜、筋内膜、筋周膜、筋外膜へと伝播して、全ての筋細胞群を巻き込んで、最終的に腱から骨につながる。なお、この仕組みには様々な仮説が提唱されている様です。
ちなみに、SEMIの筆者達は発生した力の大部分が細胞膜を通じて横方向に伝播する、少なくとも約50%が筋内膜を通じて横方向に伝わると想定している。量的な検証はさておき、収縮力の伝播は筋原線維-筋内膜-(腱)-骨格と言う軸方向の伝播だけでは無いと言える。
私のブログにおいて取り上げたdesmin 線維タンパクは、筋原線維のzディスク同士、z ディスクとsarcolemmaのcostamere、zディスクとmitochondria、zディスクとnucleusを構造的に関連付ける働きをしていますので、横方向の伝播を仲介する構造と言えるにではないでしょうか。
もう一つ、個々のサルコメアの収縮と弛緩による変形は、細胞内および細胞周辺の組織を巻き込んで、周囲組織全体でのズレが発生する(せん断ひずみshear strains)。その事により横方向への力のベクトルが発生する事も関連するでしょう。
この様に、筋細胞の細胞骨格(cytoskeleton)や周囲の結合組織などの複合体が、筋肉の収縮力をムダ無く経済的に骨の付着域に伝えるための重要な構造です。
参考資料 :
- Structure and Function of the skeletal Muscle Extracellular Matrix by Allison R. Gillirs他
- Strength at the extracellular matrix-muscle interface by M.D.Grounds他
- The structure and functional significance of variation in the connective tissue within muscle by Peter P. Purslow
- Role of extracellular matrix in adaptation of tendon and skeletal muscle to mechanical loading. by Michael Kler
- Force transmission between synergistic skeletal muscles through connective tissue linkage. By Huub Mass他