次に、筋線維の生成過程(筋形成 Myogenesis)までを見ていきます。
私たちの細胞は1個の受精した卵子から増殖(proliferation)を繰り返して、胎芽そして胎児(fetus)の体内を必要な細胞が遊走(migration)し、自分の立ち位置(予定領域)に来ると特定の遺伝子情報が作動を始めます。筋発生(myogenesis)のこのフェーズに関連する論文を読むと、mouse、chicken/chickと言う言葉がよく出てきます。
この様な傾向は、2000年代の論文においても見られます。Man/humanについてよりも、mouseやchickenに関する記述が多いと言うことは、扱う制約が少ない種での今まさに解明が進められている状態と言えるのではないでしょうか。
最近の論文では、特定の遺伝子(例えば、MyoD)の働きを中心に記述する論文が多く見られます。それらの論文も読みますが、私のブログでは大きな流れを確認しますので、個別の遺伝子がどんな働きをするのか、については探求しません。
中胚葉の多能性幹細胞(pluripotent stem cells)が増殖(proliferation)し、各々の筋節(myotome)が形成されて、各細胞が所定の位置につくと、特定の遺伝子が働き細胞の分化(differentiation 特定の機能を持つ細胞になる)が始まり、筋節前駆細胞(myotome progenitors)である単核の筋芽細胞(myoblast )となります。
(筋芽細胞の形成過程を経て筋節となる、と書いてある資料もあります。どの時点から筋節と言う名称を使うのか、私には確認はできていません。)
ここで、用語の整理をします。幹細胞、前駆細胞はいずれも何か別な細胞に変化する能力を持っていますが、どの様な違いがあるにでしょうか。これは私自身が疑問に思っていた事です。「幹細胞生物学の基本的概念」と言う、内容は難しいですが明快な表現の資料が見つかりましたので、その中の該当する部分を抜き出します。ただし、一部を私の理解できる表現に直してありますので、必要に応じて原典を確認してください。
○ 幹細胞(stem cell) : 自己複製能と分化能をあわせ持つ細胞
[自己複製(self-renewal) : 親細胞から細胞分裂により形成される娘細胞の内、少なくともひとつは親細胞と全く同等の能力を持つ事]
[分化(differentiation) : 細胞分裂により形成される娘細胞が、最終的に少なくとも1種類の、親細胞とは異なる機能を持つ細胞となる事]
○ 前駆細胞(progenitor cells) : 幹細胞は一般的に増殖が極めておそいが、幹細胞から生じる細胞は一過性増殖細胞(transiently amplifying cells)として、分化する前に活発に増殖してから分化に向かう。この様に分化過程に入る前に活発に増殖する細胞を言う。前駆細胞は最終的には自己とは異なった性質の細胞に分化する。
なお、幹細胞と前駆細胞との区分が明確にはできない様なケースも有るとの事です。
参考資料 :
- Making muscle : skeletal myogenesis in Vito and in vitro Jerome Chal 、Olivier Pourquie
- 筋の発生とトロポニン 化学と生物 1978年 16巻9号 千葉大学理学部生物学教室 大日方 昂
- 幹細胞生物学の基本的概念 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター 多能性幹細胞研究チーム 丹羽 仁史