深部脂肪層 : deep adipose layer
この部分をどの様に表現して良いのか。
真皮から筋肉層までの間に存在する、皮下組織と言われる部位の中でも様々なの記述がされている部位です。「deep adipose layer」はLAWでの表現です。AHFでは「subcutaneous tissue」と言われています。またこの部位についての記述が無いケース(存在を認識していないと思われる資料)も有ります。
もともと、真皮より深い位置で筋肉層より浅い位置有る部分については様々な記述、表現、名称があるので、できるだけ色々な資料に目を向けるようにしていますが、これから述べる部位は更に格別に不可解です。幸いな事に、LAWやAHFでは何らかの組織の存在を認識して記述しています。
存在を認識している2つの資料は、同じ(と思われる)からだの部位を各々どう捉えているのでしょうか。
Layers of the abdominal wall (LAW) :
・ 位置づけはdeep adipose layer
・ 線維性の隔壁はほとんど斜め方向、水平方向にある。
・ 深い位置にある皮膚支帯で、膜質層と深部筋膜を結合。
・ 脂肪細胞の大きく、平らな、多角形な小葉。
・ 血管、神経が観察される。
Architecture of Human living fascia (AHF) :
・ 位置づけはsubcutaneous tissue
・ 組織は滑らかスライドする能力を持ち、柔軟性を増していく。
・ 多角形の小空包群(multimicrovacuolar system)が有り、それらは長く、あまりこわばっていない線維で構成されて、原繊維間のスペースは比較的大きい。
・ 比較的緩やかな領域で、静脈、動脈、神経が通っている。
・ 疎性結合組織である。
・ 細胞核、細胞質をともなった細胞ではない。
あえて共通項をあげると、
・ 線維性の構成物で囲まれた空間(小葉あるいは多角形の小胞)が有る。
・ 血管、神経の存在を観察。
・ スライドする柔軟性を持つ。(LAWでは、the sliding of the subcutaneous tissue over the deep fasciaeと記述)
したがって、どの様な呼び方をされようと、実態としては膜質層と筋肉を覆う深筋膜との間には、『線維の集合である支帯による蜂の巣状(表現の仕方は色々ですが)の空間領域が有り、衝撃に対してはスライドする事で柔軟に対処し、血管や神経などが緩やかにその場に保持され保護されている』、のは事実と考えて良いと思います。
参考資料 :
Layers of the abdominal wall : anatomical investigation of subcutaneous tissue and superficial fascia. Luca Lancerotto 他
Architecture of Human Living Fascia. Jean-Claude Guimberteau , Colin Armstrong
皮下組織 ドクターズオーガニック
プロメテウス 解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
Structure of the rat subcutaneous connective tissue in relation to its sliding mechanism Arch Histol Cytol. 66 by Seiichi Kawamata他. (哺乳類の皮膚がスライドし易くなっている特性を、皮下組織の薄いコラーゲン・シートの重層構造により解き明かした論文です)